2012 IOS-IASA Joint Workshop of Young Sociologists(2012年3月19・20日、於 台湾高等研究所)

3月19〜20日に台湾高等研究所で開催された「第3回若手社会学者のための国際共同ワークショップ」に参加させていただきましたので、簡単に活動報告をしたいと思います。来年以降の応募者・参加者の方などの参考になれば幸いです。

参加に至るまで

今回のワークショップは、東京大学東洋文化研究所と台湾高等研究所(Academia Sinica)・社会学研究所との共催で、日台の若手社会学者の国際的な学術交流をねらいとしたものでした。今回の開催が3回目とのことで、2010年には台湾、2011年は東京、そして今回の台湾というように台湾・東京の持ち回りで開催されいるものです。

僕はたまたま同じ研究室の同期からこのワークショップの存在を教えてもらい、今年からは修士課程学生も応募可能となっているようでしたので、応募することにしました。
(参考 Call for Papers [2011/11/24]:http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/news/news.php?id=ThuNov241350242011
応募に際しては、まず、広く社会学に関わるトピックについて200ワード程度の英文サマリーの提出が求められ、採用決定者にはさらに、プロシーディングに掲載するための3000ワード程度の論文提出が求められました。
そして、審査の結果、ペンディングを経て、幸運にも採用いただけることとなりました(第一次選抜で4人、第二次選抜で2人が選ばれたようです)。参加する学生の構成は修士課程2名・博士課程4名で、所属別では情報学環3名、社会学研究科1名、総合文化研究科2名となっており、合計6人の学生が選抜されました。(なお、今回ポスドクの方の採用は0名でした。)以下で紹介するように、参加者の研究テーマは多岐にわたり、非常に多様な人々が集まりました。

一方、アカデミア・シニカの学生は博士課程4名・ポスドク3名の方が採用され、こちらも多様なテーマを研究している人が集まりました。

なお、東大側の今回の採用基準としては、(1)台湾側で集まった参加希望者のテーマとの広い意味での共通点があるか(以下でみるように、1セッションを日本の学生と台湾の学生で構成されるようにするため。)、(2)出来るだけ若い研究者(年齢的な意味ではなく、学年的な意味で。実際、今回の参加者は社会人学生の方もいらっしゃいましたし、年齢層は僕も含め必ずしも低くありませんでした。)などがあったそうです。
(なお、上記採用基準は、ワークショップの場で先生がおっしゃられていたので、公開情報と認識し、記載しております。)

ワークショップの内容

次に、ワークショップの発表内容について、簡単に紹介したいと思います。なお、プログラムは以下のページから確認することができます。
http://www.ios.sinica.edu.tw/ios/E/?msgNo=20120319-2

初日の開会の言葉では、マイケル・シャオ先生(台湾高等研究所・社会学研究所)と羽田正先生(東京大学東洋文化研究所所長)が、若手研究者が国際的なワークショップを行う意義について意見を述べられました。シャオ先生は母国語ではない英語を使って、研究発表することの意義を説き、羽田先生は国際的に発表を際に、ある語句・概念を「翻訳」するときに捨象される次元に注意を払う必要性などについて指摘されました。

第一セッションは、「東アジアにおける社会運動と科学」というテーマで発表が行われました。内容は、台湾の環境問題、G8サミットに対する抗議団体の分析、3・11以前・以後における人々の原子力専門家認識、フランスの原子力政策と文化的背景などでした。

次に、特別講演として、ジェイソン・カーリン先生、園田茂人先生の発表が行われました。カーリン先生は日本のCMにおいて有名人が起用されることが多いのはなぜかという問題を立て、芸能人に対する親近感を利用したCM製作という特徴を指摘しました。一方、園田先生は天津における民主主義意識を分析し、市民の間に選挙への投票行動が浸透したにもかかわらず、市民の民主主義意識にはつながらなかったことが指摘されました。

第二セッションでは、「医療と政治」というテーマでした。最初に、第二次大戦後の日台における生殖の「政治」における社会的背景の分析が行われました。そして、私が近世日本の医師がいかに障害に対する医療を理論化したか、およびその知識が形成される社会的背景について分析を行いました。(なお、私の発表は別エントリにて詳説したいと思います。)

第三セッションは、「経済成長の文化的コンテクスト」というテーマで行われました。台湾における経済活動の二面性、発展途上国に対するサービス産業の投資、さらには台湾の企業における親族関係と雇用の関係性などの分析が行われました。

二日目の第四セッションは、「東アジアにおける政策の形成」というテーマではじまりました。中国におけるタバコ産業の一極集中化過程と政府の意図の考察、そして、スマートフォン普及後の日韓政府における政策の比較分析が行われました。

第五セッションは、「グローバリゼーションに直面する中国(台湾)」というテーマで行われました。そこでは、台湾人男性とベトナム人女性間の「国際」結婚言説にみる<自己/他者>性の分析、中国人の安全保障意識と軍事支出のズレについての分析が行われました。

以上、一人約15〜20分のプレゼンと10分の質疑応答が行われました。会場には、東大、アカデミア・シニカの学生・先生だけでなく、社会人の方や去年の参加者の方も聴講されていたようです。

感想

最後に、今回のワークショップの個人的な感想について少し記しておきたいと思います。

僕自身、今回の発表は(ほぼ)はじめての研究発表であった上に、英語での発表(+プロシーディング用論文の提出)であったため、発表に際しては非常に緊張し、正直あまり自信はありまでんでした。そして、実際、僕の拙い発表に対しては研究の不十分さを多く指摘していただき、自分の未熟さを知ることが出来ました。その意味で今回発表できたことは、自分にとって非常に勉強となりました。
また、同セッションの発表者の方とは、対象とする時代の違いこそあれ、関心を共有するところが大きかったため、ワークショップ終了後に情報交換をし、多くのことを学ぶことが出来ました。今後もこのような交流は続けていきたいと思います。
一方では、それ以外のセッションの方の研究テーマは、第一セッションの科学技術社会論STS)に関する発表以外はほとんど自分になじみのない研究分野でしたので、正直完全に理解できたとは言い難いことがありました。実際、園田先生の指摘にもあったように、他の発表者に対するコメントは先生からのものが中心になってしまっており、僕自身も理解不足から、コメント出来ずにいました。この点については反省したいと思いますし、そのためには、今後は狭い視点に留まることなく、積極的に他分野の知識の吸収に励まなくてはいけないでしょう。
また、逆に言えば、自分の研究も他分野の方にとってはおそらくわかりにくかったと思われるので、今後、専門が離れている人に対する発表については、前提となる知識や背景の共有など、十分に注意を払いたいと思いました。

このように、修士課程1年のこの時期に英語で発表機会を得られたことは、個人的には非常に大きな経験となりました。

来年のこの共同ワークショップは東大での開催となります。園田先生も出来るだけ多くの方にチャレンジしてほしいとおっしゃっていましたので、多くの方に応募されることを願っております。僕自身、応募に際しては色々とためらっていましたが、今となっては応募して本当に良かったと実感しております。そのため、背中を押してくれた同期の友人、および先輩方には非常に感謝しています。
ということで、国際学会での発表のチャンスが得られなかったり、発表に踏み出せなかったりする学生の方に少しでも参考になればと思い、このエントリを書くことにしました。(単純に、今回応募する際にweb上でこのワークショップについての情報をあまり得られず、どんなワークショップなのかわからず困ったという経験にも由来していますが。笑)修士課程の学生であれば、卒論の議論を発展させたものを発表したり、修士論文で取り組む話題について発表したりしてもいいと思いますので、もし少しでも興味をもったら、是非とも応募されることをお勧めします。
ただし、僕の拙い研究発表のせいで、来年から修士課程学生の応募資格がなくなっていたらごめんなさい。笑

最後にこの場を借りて、何の面識もなく、さらには研究実績のない修士課程の学生を採用くださった園田茂人先生をはじめとして、有益なコメントをくださった先生方、そして非常に刺激的な発表を聞かせてくれた参加者の方々に感謝いたします。

[加筆・訂正:2012/03/22 23:53]