付記:研究会における手話通訳派遣の手順などについて

3月24日に行われた生物学史研究会「近代における医療・福祉・障害者」の追記として、今回の研究会を通じて手話通訳について知り得たことを簡単にメモしておきたいと思います。今後、運営側として学会や研究会で手話通訳を依頼する際にお役立て下さい。

研究会報告へのリンク

生物学史研究会「近代における医療・福祉・障害者」(2012年3月24日 於:東京大学駒場キャンパス
http://d.hatena.ne.jp/fujimoto_daishi/20120326/1332735464

手話通訳派遣の申し込み

今回、生物学史研究会での手話通訳を依頼するにあたり、まずはこちらの依頼内容などについて簡単にまとめておきます。

主催:日本科学史学会 生物学史分科会
日時:2012年3月24日 15時00分〜18時00分
場所:東京大学 駒場キャンパス
依頼内容:研究会発表者(2人のうち1人)の手話通訳

これまでに手話通訳の派遣を行ったことがないのでどうすればいいかわからず、とりあえず、東京大学内にあるバリアフリー支援室に問い合わせてみました。しかしながら、こちらは東大の学生および教員に手話通訳が必要な場合にしか、手話通訳の派遣が出来ないようで、別の派遣施設を紹介頂くことになりました。それが、「東京手話通訳等派遣センター」です。あわせて、発表者の方に相談したところ、上記派遣センターと「横浜ラポール」というところを紹介いただきました。

そこで、以上2施設の費用などを勘案した結果、県外からの派遣とはなりますが、横浜ラポールにお願いすることにいたしました。これは、費用の点からだけでなく、以前に発表者の方が横浜ラポールを利用し、研究会へ手話通訳士を派遣された経験があるということもあり、アカデミックな場における手話通訳も可能であると判断したためです。

その後、横浜ラポールと具体的な打ち合わせに入りました。まず、派遣人数の確認をしました。研究会は3時間(30分前集合なので、拘束は3時間半強)だったので、手話通訳士の方の疲労を考えると3人必要とのことでした。一方、懇親会(2時間)であれば1人で大丈夫とのことでした。次に、費用について伺いました。研究会の方は9,360円(3〜5時間以内の一律料金)、懇親会の方は7,280円(1〜3時間以内の一律料金)で、プラス交通費(実費あるいは一律1,500円)となりました。

(ちなみに、横浜ラポールでは、支援を必要とする方が学生の場合、派遣料が無料あるいは低額になるということでした。このサービスは積極的に利用すべきだと思います。)

なお、これらの手続きは基本的に電話で確認し、申し込みについてはFAXで行いました。メールでの問い合わせや申し込みに対応していない点については少々不便に感じました。

その後、研究会一週間前に先方から手話通訳士の方の情報を郵送でいただき、発表者二人の原稿をそれぞれお送りし、事前に予習をしてきてもらいました。なお、本来であれば、このタイミングで手話通訳士の方への振り込み口座をお伺いし、研究会終了後、費用を振り込むということになっていたのですが、僕がこれを失念しており、その後、横浜ラポールの担当者の方・手話通訳士の方にご迷惑をおかけしてしまいました。

研究会当日

研究会における手話通訳について、事前に注意事項を先方に伺っていたのですが、以下のような回答をいただいておりました。

・発表に際しては、特に手話通訳を意識せず普段の話すスピードでやって構わない。(逆に、手話通訳を意識して単語ごとに文章を切られると訳しづらい。)
・しかし、原稿読み上げの場合は、よどみなく言葉が並べられるので、通訳が追いつかない場合がある(1分あたりの通訳可能文字数など、具体的な提示はなし)
・その場合も、原稿をあらかじめ共有することで、対応可能なのであまり気にしなくても良い。
・繰り返しを使うなどすると、より良い通訳が可能となる。

そして、当日に発表者からの要望として、フロアからの質問の際には、一点ずつ質問に答えていく方が良いということを伺いました。

以上のことを踏まえた上で研究会にのぞみました。しかし、いざ研究会がはじまると、さすがプロのお仕事で、何の滞りもなく進行することができました。

無事、研究会を成功させることができましたが、手話通訳士の方の反省会を横で聞いていたところ、やはり今回のような学術的な発表などについては、手話通訳が難しくなるとのことでした。なので、抽象的な話や難解な議論をするときは、ゆっくりしゃべってもらえる方が良いとのことでした。特に、「譲歩(〜であるけれども)」を多用すると、通訳しにくいそうです。これは、今後の課題として、心にとどめておきたいと思います。

余談ですが、研究会終了後、手話通訳士の方から原稿や資料などが返却されたのですが(原稿は返却するのが決まりだそうです)、その原稿をみるとメモがびっしりと残されおりました。プロの仕事にただただ感服するのみでした。

今後に向けて

今後、生物学史分科会としても要望があれば研究会に手話通訳を情報保障としてつけたいと思いますが、予算の関係で研究会に毎回手話通訳をつけることは難しいと思います。もちろん、横浜ラポールの例のように、参加者が学生の場合は条件つきで手話通訳士の公費派遣が可能となるケースもあるので、積極的に活用したいところです。しかし、それも出来ない場合は、例えば筆記通訳・PC通訳などで対応するしかありません。その場合は、障害学会などでも行われているように、発表者の原稿を事前にサーバ上にアップし、情報を共有するといった方法も考えられます。これについては、他の参加者にとっても有用であると思われ、事前に予習することで研究会にのぞむことによって、発表への理解が深まるというメリットも考えられます。

なお、今回の生物学史研究会には、発表者以外に数名の聾者の方に参加いただきました。手話通訳があることによって、この分野に少しでも興味をもっていただける方が増えるというのは、当分科会としても本当に嬉しい限りです。今後も、多くの方に興味をもっていただけるよう、精進して参りたいと思います。

最後に、手話通訳などの情報はなかなか学会などで共有されていないと思いますので、もし他にアイディアをお持ちの方は是非ともコメントください。あるいは、Twitter(@fujimoto_d)でもメール(fujimoto.daishi@gmail.com)でもお気軽にコメントお寄せ下さい。

東京都近郊の手話通訳士派遣センターについて(まとめ)

東京大学バリアフリー支援室 http://ds.adm.u-tokyo.ac.jp/
1時間 3,150円
支援を受ける方が学生・教職員である場合のみ、派遣可能(今回のケースのように、会場が東大であるだけでは、派遣不可能)

・東京手話通訳等派遣センター http://www.tokyo-shuwacenter.or.jp/
2時間 7,300円

・横浜ラポール http://www.yokohama-rf.jp/shisetsu/rapport/
1時間以内 4,160円
1〜3時間以内 7,280円
3〜5時間以内 9,360円
5時間超過 10,400円
支援を受ける方が学生であれば無料(公費派遣)、場合によっては市外への派遣も可能
支援を受ける方が仕事をしている場合、公費での派遣は難しい
支援を受ける方が学生でなくとも、資格取得に必要であれば派遣が可能となる場合あり

なお、詳細については、各施設に直接お問い合わせください。また、その他自治体が提供するサービスも多く存在すると思います。情報提供などあればよろしくお願いいたします。

誤植訂正(2012/03/26)
誤:東京手話通訳士等派遣センター → 正:東京手話通訳等派遣センター