女性高等教育の是非と医学言説の交錯(2):横山美和「19世紀後半アメリカにおける「女性」の構築と科学言説」(2007)
明日は駒場で生物学史研究会「ジェンダーと科学史」(http://goo.gl/BZSI6)が開催されますが、予習もかねて、報告者の横山美和さんの論考を読みました。
横山美和「19世紀後半アメリカにおける「女性」の構築と科学言説――E.クラークの女子高等教育論を中心に」『F-GENSジャーナル』7、2007年、273-279頁。
http://teapot.lib.ocha.ac.jp/ocha/handle/10083/3878
本論考は19世紀後半のアメリカの医学者であるエドワード・H・クラーク(1820-1877)の生理学理論に焦点をあて、彼の女子高等教育に対する批判と彼の生理学理論の重なりを指摘したものである。
19世紀中頃のアメリカでは「女性問題」(Woman Question/Woman Problem)と呼ばれる女性の権利をめぐる議論が盛んになっており、とりわけ、女性の高等教育への進出については賛否両論が多くあった。ハーバード大学メディカルスクールで薬物学の教授であったクラークは、その著『教育における性別、あるいは、女子のための公平な機会』(1873年)の中で女子高等教育に対して批判を行っている。もちろん、女子校高等教育の批判者の中には、科学的な言説によってその批判を正当化しようとした者はいたが、それらの多くは俗流科学の域を出ていなかった。そんな中、クラークは生理学という方法論によって、女性に関する生理学的な理論に基づいた女子高等教育批判を展開しようとしたのであった。
まず、クラークは男らしさ/女らしさを前提としており、その発達は妨げられるべきではないと考えていた。その際、Forceというタームを用いることで、生殖器・女らしさの発達が阻害されてしまうメカニズムについて注意を喚起している。つまり、筋肉や脳を使ってForceを浪費することは控えられるべきで、Forceは生殖器・女らしさを育むために使われるべきと考えた。なお、彼の用いるForceという概念は、1840年代に定式化された「エネルギー保存則(Law of Conservation of Force)」に影響を受けていると考えられる。すなわち、エネルギー保存則を人体にまで敷衍し、人体内のForceの移動によって、生理現象を説明しようとしたのである。
そして、このような生理学理論に基づき、彼の女子高等教育批判は以下のように説明される。すなわち、Forceは他の活動よりも脳の活動に優先して分配される傾向があるため、過度の知的活動が他の活動からForceを奪い、女性においてはその生殖器の発達を妨げる恐れがある。そのため、生殖器が発達し、女らしさが形成されていく思春期という時期に女性に対して教育行うことは、知的活動に対し過剰なForceが利用されることになる。そして、それにより女性にとって重要な女性らししさ、生殖器の発達のためのForceが不足してしまう恐れがある。そのため、女子高等教育は望ましくない、という議論を構成したのであった。
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