江戸時代の医学教育施設:山崎佐『各藩医学教育の展望』(1955)

 江戸時代の医学教育史に関する基礎的な文献をチェックしました。限定刷であるため、図書館などでの所蔵は多くないかもしれませんが、医学教育の歴史を調べる上では最低限目を通しておくべき著書です。

山崎佐『各藩医学教育の展望』東京:国土社、1955年。

各藩医学教育の展望 (1955年)

各藩医学教育の展望 (1955年)


 江戸時代の藩校に関する研究は、笠井助治『近世藩校の綜合的研究』(吉川弘文館、1960年)や石川謙『日本学校史の研究』(小学館、1960年)など一定の研究蓄積がある。一方、医学教育機関に関する研究となると、現在でもそれほど多くの成果は出されていない。
 そんな中、このテーマに関するほとんど唯一の先行研究として、法医学史などの研究でも知られる山崎佐氏による『各藩医学教育の展望』が挙げられる。本稿は「4月の京都の学会〔第57回日本医史学会総会、於京都女子大学〕で講述するパンフレット」(東文研所蔵本にある付箋メモより)であり、限定刷として1955年に出版されたものである。また、氏が戦前から執筆していた「各藩医学発達史」という原稿の一部でもあり、本来であれば、さらなる史料渉猟の上で、『各藩の医学医制の発達史』としてまとめられる予定であったが、残念ながらそれは叶わなかったようである。

 本書は江戸時代に医学教育機関が設置された全95藩について、それぞれの施設の制度史や教育内容に関して簡単にまとめたものとなっている。五十音順に会津藩から琉球藩までの医学教育施設について、短いもので数行、長いもので数頁の説明が付され、総ページ数は70頁ほどである。また、全ての記述に典拠となる史料が示されているわけではない。
 このようにかなり概略的ではあるが、その後の50年の間に江戸時代の医学教育に関する研究がほとんど提出されなかったことを鑑みると、本書のもつ意義は明らかである。特に、冒頭で提示された医学教育施設の分類とそれぞれの数については、江戸時代の医学教育の輪郭を浮かび上がらせるものであるだろう。以下、著者の表現を一部変えつつ、引用したい。

A-1:藩校に医学科を設置した藩=36藩
A-2:藩校とは別に医学校(医学館、医学所)を設置した藩=26藩
A-3:A、Bのような施設をもたないが、医学教育をおこなっていた藩=21藩

B:医学研修のため、他国への遊学制度を持っていた藩=16藩

C-1:蘭方医学を採用していた藩=18藩
C-2:洋学(英仏独)教育を採用していた藩=17藩

D:医家がその他の一般教育を指導していた藩=4藩

F-1:医家個人による私塾で医学教育がおこなわれた藩=33藩
(F-1:医家個人による私塾で医学教育の生徒数=1259人)
F-2:医家個人による私塾で普通教育の生徒数藩=1244人
(山崎佐『各藩医学教育の展望』2-3頁より)

関連リンク・文献

医の学統と公儀による統制:海原亮「江戸時代の医学教育」(2012) - f**t note

肥後医育史 (1976年)

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藩レベルでの医学教育史については、いくつかの藩に関する研究が既にあります。


近世藩校の綜合的研究

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255-259頁で江戸時代の医学校に関する簡単な言及があります。