地域・国家のなかの青年組織:ウォーターズ「地域史・国家史・世界史の架け橋としての青年会」(2005)

ニール・ウォーターズ「地域史・国家史・世界史の架け橋としての青年会」河西英通・浪川健治・ウィリアム・スティール(編)『ローカルヒストリーからグローバルヒストリーへ――多文化の歴史学と地域史』岩田書院、2005年、151–163頁。

ローカルヒストリーからグローバルヒストリーへ―多文化の歴史学と地域史

ローカルヒストリーからグローバルヒストリーへ―多文化の歴史学と地域史

 地域史研究の台頭によって、1970年代初頭の歴史学において支配的であった「大きな物語」への反論がおこなわれた。近代日本史研究では天皇制や軍国主義によって近代日本を特徴づける議論が「支配的なパラダイム」であったが、それに対し地域史研究は地域の多様性を描き出すことによって、そのような物語に当てはまらない事実を指摘した。そこでは、民衆側の主体性が強調されたり、中央対地方という二項対立が問題化され、「大きな物語」の解体が進められたが、反面、その議論は特殊論と結びつきやすくなってしまった。そこで著者は、地域史研究がこのようなジレンマを必然的に伴うことを認めながらも、ある程度の一般化を試みようとする。すなわち、地域史研究によって多様な事例を集めることで、それらから帰納的にまた別のパラダイムの構築を目指そうとするのであった。
 本論文は「青年会」の歴史に注目することで、これまで支配的であった日本史研究特有のパラダイムを乗り越えようとする。青年会とは江戸時代後期の旧村落の青年団体として組織されたが、日露戦争などでの再構成を経て、1930年代には軍と内務省によって支配されるようになった青年組織である。先行研究では、地域的な組織であった青年会が、国家的な組織として再構成されていく事態が注目され、青年会がいかに日本の軍国主義編入させられていったかが議論されてきた。ある者は、地域主義を志向する青年団が国家にとって脅威であるため、国家はそれを解体し国家主義へと方向付けようとしてきたと議論した。また別の者は、青年組織のもつ地域主義は共同体主義にとって有益であるから、解体されるべきでないという意見があったことも指摘した。すなわち、これまでの研究では「国家主義」という大きな物語との関連で、青年会が捉えられてきたのである。
 そこで著者は、問いの形をより普遍化したものへと代えることで、青年団に関する地域史研究を世界史研究へと接続させようとする。すなわち、「未婚青年や徴兵前の青年を、政府や村はどのように統制・利用したか」と問い直したのである。江戸時代後期の青年組織は、その粗暴な生活態度が目立ちながらも、祭礼の運営をおこなったり、消防活動やよそ者の取り締まりをおこなっていたため、村落はその組織の存在を黙認していた。明治期になるとそのような青年組織の機能が減じながらも、日清・日露戦争期には、出征兵士の家族の援助や村出身の戦死者の葬式などによって、村落への貢献を続けていた。一方で、内務省はそれを「愛国的活動」であると捉え、青年組織が国家に役立つものであるとして再編成を試みたのであった。ただし、この後に青年組織が地域主義ではなく、国家主義に傾倒するようになったわけではなく、組織はこれまで通り地域への関心を持続させていた。すなわち、青年会はあるときは村落レベルの活動に、またあるときは国家レベルの活動に自らのアイデンティティを見出したのである。このような事態は当然、日本史研究固有の問題ではなく、世界的な歴史研究との関係性において捉えられるべきなのであった。

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