復古主義と進歩主義をつなぐ有司専制批判:猪飼隆明「近代化と士族」(2012)
とある近代日本史ゼミのアサインメントとして、『講座 明治維新』より明治初期の士族反乱について新たな見方を提示している文献を読みました。
猪飼隆明「3 近代化と士族――士族反乱の歴史的位置」明治維新学会(編)『講座 明治維新 4 近代国家の形成』有志舎、2012年、91–122頁。
- 作者: 明治維新史学会編
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自由民権運動と士族反乱。一方は国民の政治参加や言論の自由などを求める進歩的・革新的な運動であるとされ、もう一方は封建制の復活を叫ぶ保守層の運動であるとされてきた。しかしながら、江藤新平が民撰議院設立建白書に署名した後すぐに佐賀の乱に参加したように、それらの運動に共通して参加する者もいた。木戸孝允はそのような事態を「奇妙事」と述べているが、研究史上でもこの問題をどう捉えるかは長きにわたって議論されてきた。たとえば、遠山茂樹はそれら対立する層を結びつけたのが武士道に由来する「指導者意識」であると捉えた。また堀江英一は、維新変革に貢献しながらもその後排除された人びとが状況を打開するために、両運動へと参加したことを「当然のこと」と評している。
それに対し本論文は、自由民権運動および士族反乱への参加者にみえる共通性を有司専制への批判であったと捉え、戦後歴史学におけるマルクス主義的伝統からの決別をはかろうとする。自由民権運動家が有司による政治を批判したことは明治7(1874)年の「民撰議院設立建白書」にみえる通りである。そこでは、国民の窮状を改善するためには、国家意思決定過程に国民が参加するべきであることが主張されている。一方、士族反乱への参加者たちが運動に参加した動機をみてみると、研究史で言われてきたように、彼ら全てが封建復帰を目指していたわけではないことがわかる。むしろ、佐賀の乱(1874)から紀尾井坂の変(1878)に至るまでの士族反乱の際には、国体毀損、民権抑圧、官吏の奢侈といった内政問題、および、千島樺太交換、琉球への威圧、外夷習俗への心酔といった外交問題などの多様な論点が挙げられており、その立場は復古主義的なものから進歩主義的なものまで幅があったのである。それでもなお士族反乱への参加者に共通したのは、特定の有司が国家の意思決定を独占していることが失政の原因であると批判したことであった。結局、士族反乱と自由民権運動は有司専制を批判する点では同じで、その克服をはかるときに前者は天皇側の論理を、後者は国民(民衆)側の論理を持ち出している点しか異なっていないと言えるのである。
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