ナショナル・カリキュラムに準拠した美術館の教育活動:佐々木宰「イギリスの美術館における教育普及活動(1)」(2010)

佐々木宰「イギリスの美術館における教育普及活動(1)――ロンドンの美術館及び博物館、アートギャラリーの事例」『北海道教育大学紀要(教育科学編)』60(2)、2010年、157–171頁。
http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/1106
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 本論文はロンドン市内の博物館・美術館における教育普及活動について紹介したものである。具体的には、古い歴史と多くの収蔵品をもつナショナル・ギャラリーおよびヴィクトリア&アルバート博物館(以下、V&A博物館)、個性的かつ特徴的なコレクションをもつV&A子ども博物館およびサー・ジョン・ソーンズ美術館、そして地域密着型で現代美術を取り扱うホワイトチャペル・ギャラリーの五つである。
 近年、博物館・美術館のアウトリーチに注目が集まりつつあり、とくに学校教育においてそれらがいかに活用出来るかが模索されている。しかし、その教育活動は国の定める教育カリキュラムとある程度の整合性をもつ必要がある。実際、本稿で紹介されているほとんどの博物館・美術館において、その教育普及活動はナショナル・カリキュラムに準拠したものになっており、とくに初等学校段階(キー・ステージ1および2)を対象としたものになっている。たとえば、サー・ジョン・ソーンズ美術館では、建築・彫刻関連を多く持つという自館の特徴を活かして、橋を題材とした理科教育がおこなわれている。また、V&A子ども博物館でも、歴史や理科、美術などのナショナル・カリキュラムと対応した教育事業がおこなわれている。なお、後者の教育活動は1セッション60〜90ポンド(9000〜13500円)程かかることから、無料の公共サービスの延長であるというより、収益を伴う事業として位置づけられているようである。
 博物館・美術館における教育普及活動は、自館の収蔵品に対して生徒たちの関心を生み出す効果もある。そのなかでも、地域に密着し、子どもたちに現代美術について知ってもらうように積極的に活動しているのがホワイトチャペル・ギャラリーである。今日においても、学校の教育プログラムにコンテンポラリー・アートが導入されることは非常に稀である。しかし、このギャラリーによる「クリエイティブ・コネクション」は、中等学校に一年間現代美術アーティストを派遣し、子どもたちとともに製作活動をおこなわせ、現代美術についての理解を深めてもらおうというねらいがある。以上のように、ロンドン市内の博物館・美術館では、専門職としての教育スタッフを活用しながら、様々な教育普及活動をおこなっているのであった。

関連文献・リンク

イギリスの博物館で―博物館教育の現場から (歴博ブックレット (16))

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