地方都市の美術館と地域社会との密着化:佐々木宰「イギリスの美術館における教育普及活動(2)」(2010)

佐々木宰「イギリスの美術館における教育普及活動(2)――リバプール、オックスフォード、ケンブリッジの美術館及び博物館、アートギャラリーの事例」『北海道教育大学紀要(教育科学編)』61(1)、2010年、291–302頁。
http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/2283
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 本論文はイギリスの地方都市の博物館・美術館における教育普及活動について紹介したものである。具体的には、テイト・ギャラリーの一つであるテート・リバプール、コレクションを持たない現代美術専門のモダン・アート・オックスフォード、ケンブリッジ大学附属のフィッツウィリアム美術館の三つである。
 地方都市に所在するということもあり、これらの博物館・美術館は地域に密着した教育活動をおこなっている。なかでも特徴的なのが、テート・リバプールにおける「ヤング・テート」という制度である。これは地元の13歳から25歳までの若者に展覧会の企画・展示を担当させ、彼ら/彼女らに同世代の若者に対して教育普及活動をおこなわせるものである。これはインターンシップやボランティアなどとはまた違った、地域の人材を活用する事例として興味深く、現在ではその他テート・ファミリーでも実施されるに至っている。
 地方都市の博物館・美術館として、初等教育から成人教育まで幅広い層を対象にした教育普及活動をおこなっていることも特徴的である。なかでも、大学レベルでの連携は目を見張るものがあり、たとえば、フィッツウィリアム美術館はケンブリッジ大学教育学部と協力している。そこでは、未来の教員たちが博物館・美術館をうまく活用して教育がおこなえるよう、フィッツウィリアム美術館と他の美術館などが協働している。