教師のための収蔵品活用資料の提供:田尻信壹「イギリスにおける博物館教育」(2010)

田尻信壹「イギリスにおける博物館教育――ロンドン帝国戦争博物館を事例として『富山大学人間発達科学研究実践総合センター紀要 教育実践研究』4、2010年、51–64頁。
http://utomir.lib.u-toyama.ac.jp/dspace/handle/10110/3261
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 イギリスの博物館は、自館の収蔵品をナショナル・カリキュラムと関連づけた資料の作成・公開を精力的におこない、学校教育における博物館の利用促進を目指している。そのような対応としては、(1)博物館(員)が直接生徒を指導するもの、(2)博物館が自館の情報や資料を教師に提供し、博物館で教師が生徒を指導するもの、(3)博物館が学校に資料セットを学校に貸し出し、教室内で教師がそれを用いて生徒を指導するものに分類できる。とくに(2)のように、国のカリキュラムと収蔵品との対応を示したような資料の提供は、日本での博物館教育ではあまりおこなわれておらず、非常に学ぶべき事が多い。
 本稿では、博物館による教育活動の取り組みに関連して、ロンドン帝国戦争博物館(IWML; Imperial War Museum London)の事例を紹介している。第一次大戦中の1917年に、国立の戦争博物館を設立することが内閣で決定されたことを受け、1920年帝国戦争博物館(IWM; Imperial War Museums)が開館した。この博物館は本館のIWMLと他の4つの分館で構成されており、第一次大戦から現在までの世界中の戦争に関わるあらゆる資料を収集・保存し、同時に、それを教育普及活動に活用しているのである。
 IMWLにおける教育普及活動として、まず(1)については、学校教育の講座として「通常講座」、「特別講座」(季節毎)、「訳者の説明による体験」などが提供されている(2010年当時)。それらは、キー・ステージ毎に区別され、たとえば、「銃後の生活」という第3〜6学年向けの講座では、館所蔵の生活用品、ポスター、写真などを調べて、疎開配給制などについて学ぶことが目指されている。なお、国立の博物館による学校教育ではあるが、この講座は一件あたり90ポンド(13500円)かかる。次に、(2)については、館内の見学者あるいは教師のために、インターネット上での学習素材を多く提供している。それらの検索サイトでは、キー・ステージやテーマにそって素材を探すことができ、授業用の資料・ワークシートなどを無料でダウンロードすることができる。つまり、ナショナル・カリキュラムとの対応関係が明示された資料を館が積極的に作成・公開しているのである。