美術館アーカイブズにおける展覧会記録と作品記録の保存・整理:川口雅子「美術館アーカイブズが守るべき記録とは何か」(2012)

 アーカイブズ・カレッジ受講のまっただ中ですが、そろそろ修了論文を執筆していかないといけないので、過去の受講生による修了論文で、それがのちに学術誌に掲載されているものを読んでいます。本論文は、国立西洋美術館・情報資料室の川口さんによるもので、平成23年度の修了論文(タイトル「美術館の機関アーカイブズに関する一考察――カナダ国立美術館展覧会史プロジェクトを中心に」)および「海外博物館だより――カナダ国立美術館アーカイブズ事情」(『博物館研究』2011年12月号所収)を元にして書かれたものだそうです。
 なお、このエントリ以降は、修了論文用の参考文献として読んでいるものを、「AC修了論文用参考文献」というメモをつけていきます。

川口雅子「美術館アーカイブズが守るべき記録とは何か――カナダ国立美術館の事例を中心に」『国文学研究資料館紀要アーカイブズ研究篇』8、2012年、83–104頁。

 日本では美術館のアーカイブズをいかに構築していくかについての議論が、まだあまり進んでいない。本論文は、カナダの国立美術館アーカイブズ活動を参照することで、何をアーカイブズの対象とするか、それらをいかに整理するかなどについて分析する。そうすることで、日本で美術館アーカイブズをつくりあげるうえで、何をしていくべきかを検討している。
 美術館には様々なタイプの記録・資料があるが、そのなかで美術館アーカイブズとして残されるべきものは何か。まず、美術館にある記録を出来る限り列挙してみると、自館で開催された展覧会に関する記録、それを開催するために生み出された事務書類、自館に所蔵される作品の来歴記録、それをつくりだす作家に関する記録、自館に限らず全国・全世界でおこなわれる展覧会に関するパンフレット・プレスリリース・新聞記事・展覧会案内状・パンフレットなどの一過性資料、自館刊行物、などがあげられる。著者はカナダの国立美術館、あるいは、世界的な美術館アーカイブズの動向に鑑み、これらのなかでもとくにアーカイブズの対象とすべきは、展覧会に関する記録と収蔵品に関する記録の二つであると指摘する。
 一般的には、こういった記録は機関のアーカイブズに保存されるものであるが、美術館アーカイブズではこのあたりの事情が異なっている。カナダ国立美術館では、展覧会に関する記録は「収蔵作品・研究・教育」グループの下にあるアーカイブズ室で保存されるが、収蔵品に関する記録は「企画展・展示」グループの下にあるコレクション・マネジメント室という場所で保存されているのである。美術館では、作品の受入・登録・貸出や展示に伴う作品管理などの業務が、コレクション・マネジメント(あるいはレジストレーション)と呼ばれ、その仕事がもつ歴史は古い。そのため、彼ら/彼女らコレクション・マネージャー(レジストレーターとも)たちは、かなり専門的かつ自律的な働きをしており、その存在が一般的なアーカイブズと美術館アーカイブズの違いを生みだしている。なお、日本の美術館ではこういった職員が未だに配置されていないため、展覧会に関する記録のアーカイブズだけでなく、作品に関する記録のコレクション・マネジメントが同時に進められる必要がある。
 コレクション・マネージャーは既に作品記録の整理に関して多くのノウハウを共有している。一方で、展覧会記録のアーカイブズは、それらの整理方法はまだ定まっていないところが多い。そのため、展覧会記録の整理法を考えていくうえで、1993年にカナダ国立美術館が立ち上げた、「展覧会史計画」という展覧会記録の整理のプロジェクトを参照している。その計画の第一段階では、まずは、文字記録だけでなく写真・映像記録などを含む展覧会記録を、幅広く特定することが試みられた。第二段階では、書誌レコード(MARCレコード)登録のためのテンプレートが作成された。当時、英語圏の図書館目録規則であるAACR2やカナダの資料記述規則であるRADがまだ十分に認知されておらず、カナダ国立美術館独自のテンプレートがつくられた。第三段階では、そのテンプレートに基づき、展覧会ごとに一件の書誌レコードがつくられ、それらが図書館目録システム(OPAC)に登録された。このように、カナダ国立美術館では展覧会記録が図書館システムへと接合するように設計されたために、多くの人びとが容易にアクセスできるようになっている。

関連文献

Museums in the United Kingdom: Archives in the United Kingdom, Art Museums and Galleries in the United Kingdom

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