医学図書館の患者への公開とEBMという考えの浸透:諏訪部直子「医学情報専門家としての医学図書館員の新しい役割」(2005)

 AC修了論文用参考文献のメモです。

諏訪部直子「医学情報専門家としての医学図書館員の新しい役割」『情報の科学と技術』55(9)、2005年、369–374頁。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002829880
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 かつての医学図書館は医療専門家に対してのみ開かれていた。しかし、インターネットの普及に伴い、患者自らが自分の病気や症状についてより容易に調べることが可能になり、専門知識を独力により身に付けた患者があらわれはじめた。そのため、医学図書館はこれまでのように医療に関する情報を閉じたものとするのではなく、そういった患者たちに積極的に正しい医療情報を提供していこうという風に考えるようになっていった。このような動きは1990年代後半から徐々に生まれはじめ、2004年に国立大学の独立行政法人化に伴い一気に加速した。こうして、大学図書館もまた市民に開かれるようになったが、一方で図書館員に求められる職務も増大していった。たとえば、証拠に基づく医療(Evidence Based Medicine; EBM)の情報提供を市民におこなうため、医学図書館の職員はEBMに適合する情報の検索技術を身に付ける必要が出てきたのである。アメリカでは、そういった問題に対応すべく、2000年頃よりInformationistという職業が『米国内科学会誌』で提案され、患者ひいては医師に対して診断を左右しうる医療情報をまとめて提供する役割の必要性が訴えられた。日本では、診断を左右するほどの情報提供をおこなうことが医学図書館員には求められていないが、EBMを情報検索などの面から支える司書の養成が、厚生省によって1999年から「リサーチライブラリアン」として進められている。また、日本医学図書館協会も2004年に「ヘルスサイエンス情報専門員」という資格を創設するなどして、一定の医学知識や専門的な情報技術をもった司書の認定をおこなっている。2005年6月現在、それには95名が登録されていたようである。このように、医学図書館の司書には、患者への図書館の公開およびEBMの思想の浸透により、新たな役割が期待されるようになっているのであった。