歴史家と他分野の研究者との協働可能性:Albury "Broadening the Vision of the History of Medicine"(2005)

W. R. Albury, "Broadening the Vision of the History of Medicine," Health and History, 7(1), 2005, pp. 2–16.

 自然科学系の研究者とは違って、歴史家は研究を一人でおこなうことが多い。しかし、歴史家も色んな分野の人びとと協働して研究をおこなっていくべきである。そうすることで、新たなリサーチトピックが生み出されるかもしれないからだ。本論文の著者である医学史家・アルブリーは、このような主張を2004年のオーストラリア歴史学会において広く歴史家たちに訴えた。実際、彼自身も以前に整形外科医のワイズとともに数本の論文を書いており、歴史学的なパースペクティブのみによっては得られることが出来ない視点を医師から得ていたのであった。そこでは、ワイズが18世紀後半の医師のテクストを臨床的・実践的な観点から検討し、アルブリーがその実践を関連しうる出来事とともに時系列的に描き出すことで、歴史家・医師のそれぞれの長所を活かした研究がおこなわれたのである。
 著者はさらに同じ医学史家に対しても、より多様な医療専門家との協働をおこなうべきと論じる。ただし、医師と一口に言っても精神科医と整形外科医とではアプローチが異なることは明らかで、その他の医療専門家であればさらにその見方が多様化しうるだろう。医学史は長きにわたって医師自身による歴史叙述であったが、当然、医療は医師だけによるものではなく、看護師、歯科医、薬剤師、理学療法士、さらには獣医や病院や実験室の技師、そして伝統医療をおこなう者たちがおり、それぞれの見方は全て医療の歴史に貢献しうる。このように、大学の歴史学部でトレーニングを受けた医学史家と、医師出身の医学史家との間の溝が深まり、ともすれば対立しがちになっている今だからこそ、歴史家と医療専門家の協働を著者は訴えるのであった。

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