日本におけるアーカイブズの動向:松岡資明『アーカイブズが社会を変える』(2011)
近年の日本におけるアーカイブズの動向について、非常に簡潔にわかりやすく説明した本を読みました。著者は日本経済新聞社の記者である松岡資明さんです。お求めやすい価格になっておりますので、アーカイブズに興味はあるけれど、まだまだ詳しくないって方は是非どうぞ。
松岡資明『アーカイブズが社会を変える――公文書管理法と情報革命』平凡社新書、2011年。
アーカイブズが社会を変える?公文書管理法と情報革命 (平凡社新書)
- 作者: 松岡資明
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2011/04/16
- メディア: 新書
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「2500対42」。この数字は、アメリカの国立公文書記録管理局(NARA)と日本の国立公文書館の職員数である(2011年当時)。職員数の多寡だけで、その国の公文書に関する意識が理解出来るわけではないが、欧米やアジアの国々の多くが国立の公文書館に少なくとも3桁の人員を配置していることを鑑みれば、アーカイブズをめぐる日本の状況は、やはり他国より立ち後れているといえるかもしれない。1987年に「公文書館法」が、2009年に「公文書管理法」が成立したが、これも他国より大幅に遅れている。著者はこのような状況を踏まえ、本書でアーカイブズのもつ可能性や今日の課題などについてまとめている。
まず、アーカイブズのもつ可能性として、地域や企業レベルでの最近のアーカイブズ活動が紹介される。例えば、2002年に発足した「天草アーカイブズ」(熊本県天草市)は、2010年9月現在、全国に18ある市町村立公文書館の一つであり、「公文書館」ではなく、「アーカイブズ」と名乗るなど、活発なアーカイブズ活動をおこなっている。また別の例として、「電気の史料館」(東京電力/神奈川件川崎市)は、エジソン直筆メモ、明治期の官庁からの命令書類、東京電燈が官庁に提出した書類の写し等の貴重資料を所蔵する史料館である。しかし、311以降、本史料館は臨時休館が続いている。福島第一原発に係る情報開示の問題など、国民の不信感が高まりつつある今だからこそ、今後はそのような問題に対応する役割の担い手として、本史料館の活動が期待される。(その他、本書で紹介されているアーカイブズは、最後の関連リンクを参照)
次に、2009年に成立し、2011年4月より施行される「公文書管理法」について説明される。この法律の目的は「行政が適切かつ効率的に運用されるようにするとともに、現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにする」(第一条)ことにある。また、1987年に制定された「公文書館法」があくまで公文書「館」について規定していたのに対し、本法律は公文書の位置づけとして、「公文書を管理・保存し、後世に伝えることにより、後世における歴史検証や学術的研究等に役立てるとともに、国民のアイデンティティの意識を高め、独自の文化を育むことになる。公文書は「知恵の宝庫」であり、国民の知的資源でもある」(第一条)と明確に規定している。さらに、この法律は情報開示の観点からも重要である。例えば、ある情報の開示を求めても、その資料が紛失してしまっていてはそうは出来ない(例えば、「消えた年金問題」)。そのため、公文書管理に関する法律は、「情報公開法」(2001年施行)と車の両輪をなしているのである。このように、本法律によって、いくつかの課題は残りつつも、日本における公文書管理をめぐる規定が一気に整備することになった。
最後に、今日のアーカイブズをめぐる問題が検討されている。第一に、いかに多様な史料を保存するかについてである。例えば、1953年に日本でテレビ放送が開始されたが、保存されている当時の映像はニュースなどに限定されており、テレビドラマなどは全く残されていない。そんな中、日本放送作家協会が2005年に番組の脚本・台本の保存を後世に伝えていこうと立ち上がり、2011年までに約4万冊の脚本・台本を収集した(しかし、2012年3月31日をもって活動中止)。第二に、博物館や図書館との連携、いわゆる「MLA連携」が検討されている。これまでは、その収集物の特徴(美術品、図書、公文書など)がそれぞれの境界を明確にしていたが、最近ではそこで所蔵されるもののデジタル化が進行し、それぞれの垣根が低くなってきていることから、その間の連携が期待されてきている。MLA連携を先駆的に行っている例として、ヨーロピアーナ(Europiana)というフランスを中心とした電子図書館が挙げられる。ヨーロピアーナは欧州全域の博物館・図書館・公文書館が所蔵する文書や文化財をデジタル化し、2010年現在、その点数は1千万点を超えるという。以上みた課題の他にも、著作権や専門職員(レコード・マネージャーやアーキビスト)養成をめぐる問題がコンパクトに紹介されている。
関連リンク・文献
エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館/大阪府大阪市中央区)
http://shaunkyo.jp/
労働組合や企業、市民団体に関する歴史資料を数万点所蔵。
仏教資料文庫(徳林寺/愛知県名古屋天白区)
http://www.aioiyama.net/bl/index.html
サンスクリット経典写本のマイクロフィルム化など、ネパール仏教関連のアーカイブズを保存。徳林寺の住職である高岡秀暢氏による。
外邦図デジタルアーカイブ(東北大学附属図書館・東北大学理学部地理学教室)
http://dbs.library.tohoku.ac.jp/gaihozu/
明治から第二次世界大戦終戦まで、日本領土以外の地域(=外邦)の地図を集めたアーカイブズ。今泉俊文東北大学大学院理学研究科教授を中心にデジタルアーカイブズ化。
月形樺戸博物館(北海道樺戸郡)
http://www.town.tsukigata.hokkaido.jp/2991.htm
1881(明治14)年に北海道で初めて設立された集治監「樺戸集治監」関連の資料。佐賀の乱などで逮捕した国事犯・反乱分子を隔離・収監した。
電気の史料館・電気の文書館(東京電力/神奈川件川崎市)
http://www.tepco.co.jp/shiryokan/
2011年3月14日以降、本日(2012年7月31日)に至るまで臨時休館中。
アジア歴史資料センター(東京都文京区)
日航アーカイブズセンター(東京都大田区羽田空港)
URLなし
2003年、「企業スピリット」を伝えるため、日本航空第二テクニカルセンター内に設置。一般非公開。企業関連史料、社内報『おおぞら』などの他、社員が個人的に収集したものも含む。
埼玉大学共生社会教育研究センター・市民資料室
http://www.kyousei.saitama-u.ac.jp/top/modules/shiraberu_top/
「宇井純公害問題資料コレクション」など公害裁判関連史料から、労働問題、消費者問題、民営化問題、住民運動などの関連史料まで、10万点を超える資料群を所蔵。
立教大学共生社会研究センター
http://www.rikkyo.ac.jp/research/laboratory/RCCCS/
国内外の市民活動の関連資料を収集・保存・公開。
法政大学サステイナビリティ研究教育機構
http://research.cms.k.hosei.ac.jp/sustainability/
国内外の環境問題、環境政策、環境運動の関連資料を収集・保存・公開。
公害地域再生センター(あおぞら財団)
http://aozora.or.jp/
西淀川公害訴訟(1978-1992年)の企業との和解金の一部を基金として、1996年に設立。訴訟記録などが保存されている。
震災文庫(神戸大学附属図書館)
水俣病センター相思社
http://www.soshisha.org/jp/
文書10万点、写真7万点、映像資料1000点、音声資料1700点もの資料を保存。