庄子大亮「歴史、文化、現代を語るための神話伝承――ギリシア・ローマ神話からポップカルチャーまで」第8回歴史コミュニケーション研究会(2013年6月2日、於:東京大学駒場キャンパス)

 昨日、はじめて歴史コミュニケーション研究会(2013年6月2日、於:東京大学駒場キャンパス)に参加してきました!今回の報告は、古代史・西洋古典がご専門の庄子大亮さん(大阪大学など非常勤講師)による「歴史、文化、現代を語るための神話伝承――ギリシアローマ神話からポップカルチャーまで」でした。あわせて、「高校世界史Aの授業をみんなで作ってみる(3)」も開催されましたが、今回の参加記では庄子さんのものだけ簡単に参加メモを残しておきます。

http://historycommunication.blogspot.jp/2013/05/86215-a.html

 庄子さんの報告テーマは、非専門家に向けてどのように「歴史」を語るべきか、ということにまとめまれると思います。庄子さんの問題意識としては、今日、「普通の人」が大学に進学するようになり、これまで通りの語り方では話が通じにくくなっており、教える側は語り方を工夫する必要があるのではないかという考えがあったのだと思います。おそらく、庄子さんは日々の授業のなかで、入学したての学生が高校までの歴史の授業と大学の授業との違いに戸惑っている姿を多く見てきているからこそ、こういった疑問をもったのでしょう。
 では、そういった大学に入りたての学生に対して、歴史をどのように語るとよいでしょうか。このときに良い素材になるものとして、庄子さんはギリシャローマ神話などの古代神話に着目します。そして、歴史の素材としての神話の意義について、二つの観点から説明しています。第一に、大学で扱う「歴史」が神話と似ているところがあるからです。おそらく、多くの人は神話と聞くと、それは基本的には事実ではなく、人々がそれぞれの思惑をもって神話を創り出し、語り継いできたと考えるでしょう。それと同様に、大学で扱う「歴史」もまた人々が様々につくりあげられてきたものとして捉えられます。このような見方は、歴史研究者にとっては当たり前のものに映るかもしれませんが、高校を卒業したばかりの学生にとっては自明ではありません。というのも、高校の授業では、歴史があたかも客観的な事実の寄せ集めであるかのように教えられ、それら「歴史的事実」が特定の誰かによって明らかにされたとは考えられることはないからです。そのような歴史に対するある種の誤解を解くためにも、庄子さんはそのとっかかりとして神話が良い素材になると考えるのでした。
 神話を歴史の授業に用いることの第二の意義は、古代神話が今日においても形を変えながら様々に存在しているからです。この点を強調することは、歴史は過去の出来事であり、現在にはそれほど関わりがないものとして捉える学生には効果的でしょう。実際、ギリシャローマ神話から現代への影響の例は数多くあります。たとえば、オサレ学生がこぞって利用するスターバックスのロゴのモチーフは、ギリシャ神話のメデューサであり、コーヒーによって人々を魅了しようとする企業の気持ちが込められています。また、ヘヴィメタルバンドはキリスト教的な文化へのアンチテーゼとして、キリスト以前の世界に注目し古代神話からバンド名を取ることが多いという逸話を知ると、バンド少年も少しは歴史に興味を持ってくれるのではないでしょうか。
 もちろん、このような話を聞いていると、「いやいや歴史学というのは、いかにそういった神話や伝統がイデオロギー的に創造されたかを明らかにすることであって、そういった上っ面だけの部分を授業で教えてちゃいかんでしょ」といった批判が出てくることでしょう。少なくとも、庄子さんの報告では現代にまで影響する古代神話の事例紹介が多くなり、個々の神話がいかにある特定の時代・地域でつくられたかについての説明はありませんでした。そのため、研究者の積み上げてきたものを放棄しようとしているように考えられるかもしれません。しかし庄子さんは、古代神話が現代にまでもたらしている影響を、ある種トリビア的に紹介して90分の授業を構成しようと言っているのではありません。そうではなく、おそらく、授業の最初の5分や中だるみしてきた途中にそういった話題を入れて、受講者の関心をひいてみてはどうかというぐらいの提案なんだろうと思います。そして、教える側としてはその隙を突くようにして、歴史学的な手法や考え方(いかに神話が創られたか、などについて)を紹介すればいいんだろうと思いました。そして、そういった気持ちは、庄子さんが報告のなかで繰り返していた、「きっかけ」、「手がかり」としての神話といった言い回しにあらわれていたと思います。

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