「彰古館」にみる軍隊と医学

 本年度の軍事史学会年次大会は陸上自衛隊衛生学校高等看護学院校舎で開催されましたが、ここに併設されている「彰古館」について少し紹介を。これがまた素晴らしかった!場所柄もあり簡単には観覧できないと思いますが、当然ながら軍陣医学関連の面白そうな資料がわんさかありまして、関連する研究をやっている人にはすごくたまらない場所だと思います。
 今回は特別展示として、「日本最後の刀の戦い」および「八甲田山の遭難」が開催されていました。とくに前者が興味深く、神風連の乱(明治9(1876)年10月)での負傷者の図絵が展示されていました。この乱は、廃刀令に反発した旧士族の人びとが陸軍に刀で対抗した戦なのですが、終戦後、乃木大将が刀による負傷者を宮内省付の洋画家・五姓田芳柳に「神風連暴動時刀傷(創)図」として描かせていたそうです。また、同じ画家による「西南戦役外科図」でも、傷を負った兵士たちが生々しく描かれておりました。
 さらに常設展示も圧巻でした。入るとすぐ目に飛び込んでくるのは、松本良順にはじまる歴代の陸軍医務局長たちの肖像画です。そして、薬研や薬箱といった江戸時代におなじみの医療道具をはじめ、明治期に海外から持ってこられた医療器械、あるいは戦傷者に恩賜として与えられたものなどが展示されています。たとえば、X線1号機や乃木式義手、戦傷奉公杖、歩兵隊医耵、医療嚢などです。さらには、戦傷によって顔面の一部を失った兵士に対する形成外科の記録も残っていました。その歴史は明治10(1877)年の大阪陸軍臨時病院での造頬術にまで遡ることができますが、第二次大戦前にはこの分野もかなり発展していたようで、失われた顔を復元していく様子をロウで示した教育用の模型も展示してありました。このように、かなり充実した展示内容を誇るものですので、多少観覧の手続きは面倒ではありますが、一度見学されることをおすすめします!

彰古館 パンフレット


関連文献

彰古館―知られざる軍陣医学の軌跡

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こちらは絶版のようで、古書での価格も高くなってしまっています。なお、鈴木晃仁先生による同書の紹介記事(コチラ)もあります。