所蔵品展「饅頭・柏・オリーブ 山口進の画業と交友」東京大学駒場博物館

所蔵品展「饅頭・柏・オリーブ 山口進の画業と交友」会期:2014年3月3日〜4月11日、於:東京大学駒場博物館
HP:http://museum.c.u-tokyo.ac.jp/exihibition.html#yamaguchi

 東京大学教養学部の正門には、柏の葉とオリーブをかたどった旧制第一高等学校の校章が印されています。そのデザインをおこなったのが、長野県上伊那郡東箕輪村出身の画家・山口進(1897–1983)でした。駒場博物館における今回の所蔵品点は、山口進に焦点をあわせ、彼の駒場での活動を記録した資料や、彼の作品などが展示されています。
 展示は三部構成になっており、「I 山口進と一高」では、山口が大正14年より一高の寮務掛として任命されたことを示す記録や一高の教授陣らとの書簡が展示されています。「II 山口進の画業」では、彼の描いた水彩画や版画、書画、あるいは長野帰郷後の文筆活動を示す『しなの』、『まつしま』といった雑誌が展示されています。
 個人的に特におもしろかったのは、二階の「III 正門の完成と越境事件」というコーナーです。一高では伝統的に、学生はいかなるときも正門を通って出入りするべきだという「正門主義」が奉じられていました。そのため、門限を過ぎて正門が閉まっていても、その正門を乗り越えて寮に戻ることが習わしとなっていました。しかし、一高が本郷から駒場に移転し、山口進デザインの正門が昭和13年1月に完成したことをきっかけに、その正門主義に違反する越境事件が起きたのです。というのも、新たな正門があまりに立派であったために、それを登った寮生たちがしばしば転げ落ちてケガをしていました。それゆえ、寮生たちは次第に正門主義を破るようになり、近くの低い垣根を跳び越えて、寮に戻るようになっていったのでした。そして、昭和13年4月、ある日の夜遅くに、風紀点検委員会が正門主義に違反している寮生7名をみつけ、彼らをとらえます。規則に違反した学生の処分をめぐって、学生を退学処分にすべきだという強硬な意見も出ましたが、結局は謹慎とすることで事件は落着しました。博物館では、事件当日の宿直日記や事件の様子を振り返った第一高等学校寄宿寮(編)『向陵誌 駒場編』などが展示されています。
 なお、今回の所蔵品展で展示されていた書簡や日誌の記録は、会場で配布されているパンフレットに翻刻されて記載されており、非常にありがたいです。また、それと同様の「解説シート」が駒場博物館HPにアップされていますので、関心がある人は是非ごらんください。