科学史関連アーカイブズの取り組み:「アーカイブズ・ネットワーク 南から北から」『記録と史料』(2008・2009)

 『記録と史料』はアーカイブズ学の動向や各地域での活動を紹介する専門誌として有名ですが、本誌には「アーカイブズ・ネットワーク 南から北から」というコーナーがあり、様々なアーカイブズでの取り組みを紹介しています。今回は特に科学史に関連するアーカイブズの記事をいくつか読みました。
 なお、以下で紹介する核融合アーカイブズ室、KEK史料室、分子科学研究所・史料編纂室の目録は、総合研究大学院大学「基盤連携資料情報共有化データベース」(コチラ:http://www.i-repository.net/infolib/meta_pub/OdnCsvDefault.exe?DEF_XSL=default&GRP_ID=G0000093&DB_ID=G0000093OUDAN&IS_TYPE=csv&IS_STYLE=default)に一部統合されており、自由に検索することが可能です。また、これらの機関は国文学研究資料館の「史料情報共有化データベース」を利用し、他機関との積極的に協働を行っているようです。

木村一枝「核融合科学研究所核融合アーカイブズ室(アーカイブズ・ネットワーク 南から北から )」『記録と史料』18、2008年、56-60頁。

 故・早川幸男氏(元名古屋大学学長)が、核融合という分野の発展には資料保存が重要であることを指摘したことを受け、1980年代初頭頃より活動開始。科学史家・西尾成子氏(現日本大学理工学部名誉教授)が1990年代半ばに核融合研究の歴史研究に携わったことをきっかけとして、資料保存の重要性が広く認識されるようになり、活動が活発化。その西尾氏を研究代表として、名古屋大学および核融合科学研究所の名誉教授らによって「我が国の大学における核融合研究に関する資料調査研究」が発足。2005年1月、核融合科学研究所に「核融合アーカイブ室」が設置された。
 登録される資料件数は18000件にのぼり、核融合研究の黎明期に活躍した研究者の資料を多数所蔵している。例として、伏見康治(1909-2008、名古屋大学プラズマ研究所初代所長)、早川幸男(1923-1992、元名古屋大学学長)、関口忠(1926-2005、東大名誉教授)などの史料がある。その他にも、核融合関連の会議・委員会の議事録や原子力委員会の関係資料も所蔵し、さらには核融合研究者に対するインタビューなどのオーラルヒストリーも積極的に収集している。
 総合研究大学院大学「基盤連携資料情報共有化データベース」に掲載されている目録は4つの階層構造(Collection (Fond)>Series>File>Item)で記述されており、目録記述の電子化国際基準であるEADに準拠している。

関連リンク

核融合アーカイブ
http://www.nifs.ac.jp/archives/index.html

関本美知子「KEK史料室――自然科学系分野におけるアーカイブズとは(アーカイブズ・ネットワーク 南から北から )」『記録と史料』19、2009年、58-61頁。

 菅原寛孝氏(元高エネルギー加速器研究機構KEK)機関長)の発案により、2001年頃から高橋嘉右氏(高エネルギー加速器研究機構名誉教授)を中心として活動開始。2004年4月、「KEK史料室」として正式な機関として発足。(なお、KEKの前身である高エネルギー物理学研究所(高エネ研)は、1971年に筑波学園都市に設立され、1997年に統合され、KEKへと改組されている。)
 所蔵されている主な資料は、高エネ研やその他関係機構の議事録、高エネ研KEKの施設に関する写真史料や研究員の収集資料である。また、高エネ研の関係者に対するインタビューも行っており、オーラルヒストリーの保存にも努めている。
 アーカイブズの課題として、第一に規模の小ささが挙げられており、KEKの図書室や広報室との連携が目指されるべきだとしている。第二に他の研究機関とのアーカイブズネットワークの構築が挙げられており、核融合アーカイブ室や分子科学研究所だけでなく、基礎生物学研究所生理学研究所国立天文台国立極地研究所宇宙科学研究本部などとのさらなる連携強化について提言している。第三に科学史家や科学社会学者、アーキビストとの共同研究についても言及している。

関連リンク

KEK史料室
http://archives.kek.jp/
・「オーラルヒストリーによる巨大科学の現代史資料システムの構築と共有化」科学研究費補助金(基盤A)、2006-2009年度、研究代表者:平田光司
http://kaken.nii.ac.jp/d/p/18200052.ja.html
平田光司氏(総合研究大学院大学教授)によってKEKのオーラルヒストリー調査がおこなわれました。

木村克美「分子科学研究所・史料編纂室の現状――3年目を迎えて(アーカイブズ・ネットワーク 南から北から )」『記録と史料』18、2008年、53-55頁。

 2005年に分子科学研究所が設立30周年となったことを受け、2006年に史料編纂室が設置された。
 所蔵資料は、1965年に日本学術会議で勧告され、いくつかの小委員会を経て、1974年に発足された分子研準備室に至るまでの関係資料がある。これは、長倉三郎氏(第2代分子研所長)から提供された史料で、「長倉史料」と呼ばれている。また、井口洋夫氏(第3代分子研所長)からは準備室時代および分子研創設初期の史料が提供された(「井口史料」)。