世界史未履修問題以降の歴史教育:「<特集>いま、歴史教育は何をめざすのか」『歴史評論』(2012)

「<特集>いま、歴史教育は何をめざすのか」『歴史評論』749、2012年、1-72頁。

 
 『歴史評論』の今月号(9月号)では歴史教育に関する特集が組まれていました。最近は、『学術の動向』(16(9)、2011年。)でも同様の企画が組まれており、歴史教育に関する関心が高まっているようです。そこで、Twitterでも既に投稿しましたが、以下、簡単にそれぞれの論考の概要をまとめてみました。なお、編集委員会による「特集にあたって」は下記HPから全文閲覧可能です。
http://www.maroon.dti.ne.jp/rekikakyo/magazine/contents/kongetugou.html

 ちなみに、今月28日に歴史教育に関する研究会が開催される予定ですので、興味のある方は是非。詳細は下記ツイートを参照(^^)
https://twitter.com/kunisakamoto/status/236842410855002113

戸川点・大門正克「グローバル化の時代における歴史教育の対話」『歴史評論』749、2012年。

 『Jr. 日本の歴史 7 国際社会と日本――1945年から現在』(小学館、2011年)を読んだ戸川点と著者・大門正克との間の往復書簡。実際に高校生に日本史を教えている戸川と高校日本史Aの教科書執筆経験もある大門の間の応答からは、歴史研究者と現場の高校教師の間の歴史教育に対する感じ方の違いを窺い知ることができる。日本学術会議による歴史教育の改革案などで提案された、「考える歴史」や「世界史と日本史の統合」といった課題の実現可能性が検討されている。 特に前者については、石巻市雄勝小学校の教師・徳水博志の問題提起を紹介し、被災地復興を担う主体を育てるための歴史教育への転換について検討されている。

久保亨「学術会議の歴史基礎案」『歴史評論』749、2012年。

 2006年秋に発覚した世界史未履修問題を受けて、2011年に日本学術会議は高校地理歴史教育の改革を提言した。この問題が生まれた背景には、大学受験に関わる進学校の葛藤などがあり、の問題やそれが出された経緯や背景を概観した後、「歴史基礎」という新しい科目をめぐる様々な意見を簡潔にまとめている。 なお、末尾につけられた付録「資料・「歴史基礎」科目の具体的な構想案」は、日本学術会議の提言<参考資料6>を簡潔に整理したものであり、非常に有用である。

油井大三郎「高校歴史教育の改革と思考力育成」『歴史評論』749、2012年。

 2011年の日本学術会議による提言では、「思考力養成型」の歴史教育について検討されているが、本論はそのようなタイプの歴史教育について、欧米におけるその実践が紹介されている。例としては、長年対立関係にあったドイツとフランスという国家が協力して編纂した『ドイツ・フランス共通歴史教科書・現代史』や、アメリカの全国歴史基準協議会の理念などが挙げられている。特に、後者については、民主主義と歴史教育というアメリカの文脈を踏まえながら、市民の要件としての歴史的知性、歴史的理解と歴史的思考の区別、トピック選択的な教育と通史的教育の対立など、「思考力養成型」の歴史教育において重要となる主題が紹介されている。

野口剛「歴史の学びの原初的形態へ」『歴史評論』749、2012年。

 今日における歴史教育の「混迷」を指摘しつつ、学校で最近試みられている様々な新しい取り組みを紹介している。例えば、『少年週刊サンデー』というマンガ雑誌を用い、この今日的な資料から現在と過去について検討したり、黒羽清隆が静岡大学で『木戸幸一日記』という一次史料を学生と講読していたり、生活指導が多い高校の学生にその地域の暴走族に関する調べ学習を課したりと、現場では多くの試行錯誤がなされている。 そのような試みを通じて、歴史を自主的・自発的に学ぶ可能性が探られている。

佐貫浩「歴史を考える力としての学力の構造――「仮説性」という概念を介して歴史認識の学力を考える」『歴史評論』749、2012年。

 諸事情により割愛。(すいません、時間内に読み終わりませんでした・・・。)

参考・関連文献

戸川点・大門正克論考

ジュニア 日本の歴史 7

ジュニア 日本の歴史 7

・「特集 新しい高校地理・歴史科教育の創造――グローバル化時代を生き抜くために」『学術の動向』16(9)、2011年。
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/tits/16/9/_contents/-char/ja/
・徳水博志「被災地の復興を担う教育観の転換を」『クレスコ』132、2012年。

久保亨論考

日本学術会議「新しい高校地理・歴史教育の創造――グローバル化に対応した時空間認識の育成」(平成23年(2011年)8月3日)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t130-2.pdf

油井大三郎論考

ドイツ・フランス共通歴史教科書【現代史】 (世界の教科書シリーズ)

ドイツ・フランス共通歴史教科書【現代史】 (世界の教科書シリーズ)

・近藤孝弘「欧州統合と歴史教育――ドイツ・フランス共通歴史教科書をどう読むか(特集 歴史認識問題と国際関係)」『学術の動向』14(3)、2009年、82-84頁。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/14/3/14_3_3_82/_article/-char/ja/

野口剛論考

日米開戦・破局への道 黒羽清隆日本史料購読

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佐貫浩論考

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