鉱石をめぐるグローバル・ヒストリー:竹田和夫(編)『歴史のなかの金・銀・銅』(2013)

 寄稿者の一人である仲野義文氏(石見銀山資料館・館長)より御恵投いただきました。ありがとうございます。以下、簡単に紹介を。

竹田和夫(編)『歴史のなかの金・銀・銅――鉱山文化の所産』勉誠出版、2013年。

 本書の主題は鉱山史である。しかし、そのタイトルではあえて「金・銀・銅」という言葉が用いられ、鉱石に焦点が当てられている。これは、従来の鉱山史研究が各地の鉱山にのみ注目する傾向が少なからずあったことに対し、本書の編者が鉱石そのものに注意を促すことによって、鉱石をめぐるグローバル・ヒストリーを描こうとする意図をもっているからである。
 そのような編集方針のもと、本書には10頁前後のやや短めの論文が全部で16本おさめられているが、第I部の「金・銀・銅をめぐる文化交流史」と第III部の「日本・アジア・ヨーロッパの鉱山文化――技術・環境・民俗」の諸論考は、編者の問題意識がとくに反映されている。そこでの問題設定としては、日本の鉱石が国際市場にどのように広がり、受容されたか、あるいは、同じ鉱石に対して他国ではどのような技術が導入されたか、などがあげられる。たとえば、前者については、島田竜登氏による「海域アジアにおける日本銅とオランダ東インド会社」が、17–18世紀にオランダ東インド会社が日本の銅を多く輸入した背景として、南アジアとの交易の際に自国の銀輸出を抑えるために、その代わりとして日本の銅が注目されたと指摘している。一方、後者については、上田信氏による「中国雲南の鉱山文化――銅都・東川への旅」が、銅都と呼ばれる中国雲南省の東川の歴史を古代から近代まで概観し、竹田和夫氏による「中世ヨーロッパの鉱山経営・技術革新・宗教」が13–15世紀のヨーロッパでの鉱業について、当時最大の商人・銀行家として知られたフッカー家との関連を示しながら紹介している。
 一方、第II部の「日本の鉱山と地域社会――生産・信仰・暮らし」では、国内の鉱山における文化・民俗について考察した論文がおさめられている。つまり、これまでの経済史・経営史的な観点から鉱山史を描くのではなく、文化史的な観点からそれを描こうとしている。仲野義文氏の「石見銀山の文化とその基層」は、石見銀山の銀山師・高橋富三郎による安政期の日記などを手がかりに、銀山町の住人たちが享受した二つの文化について紹介している。まず、鉱山町特有の文化として、銀山町住民や代官所役人が皆で鉱山の繁栄を願っておこなった山入式祭などが示され、次に在郷町などと共通する文化として、俳句や短歌、茶の湯などの文芸が銀山町の庶民にまで広がっていたことが指摘されている。渡部浩二氏の「鉱山絵巻から見る佐渡金銀山」は国内外あわせて130点以上存在するという佐渡金銀山の絵巻について、実際にそれらの図を多く示しながら、それぞれの特徴について紹介している。そのなかには、狩野派の絵師あるいは京都の四条派・三谷春成による絵図も含まれ、それらが他鉱山の絵図にも影響した可能性が示唆されている。

関連文献

グローバル・ヒストリーの挑戦

グローバル・ヒストリーの挑戦

海と帝国 (全集 中国の歴史)

海と帝国 (全集 中国の歴史)

銀山社会の解明―近世石見銀山の経営と社会 (山陰研究シリーズ)

銀山社会の解明―近世石見銀山の経営と社会 (山陰研究シリーズ)