江戸時代の佐渡における医療環境:田中圭一『病いの世相史』(2003)

田中圭一『病いの世相史――江戸の医療事情』ちくま新書、2003年。

 本書の著者は、佐渡金銀山の歴史など、主として新潟を対象に地域史研究を進めてきた人物である。本書の副題にある「江戸の医療事情」というのは、正確にいえば、江戸時代から明治期までの佐渡という地域における医療環境を指している。つまり、本書は著者の長年の関心であった民衆の視点から当時の人びとがどのような医療文化をもっており、どのような医療・福祉を享受していたかを、一次史料に基づきながら示した書籍である。本書で具体的に利用されている史料は、『佐渡国略記』、『佐渡相川志』(宝暦期:1751-1764年)、『浮世噺』(1856年)などがある。
 江戸時代の佐渡には医師が多かった。宝暦年間には佐渡住民1万人に対し、相川町の医師は30人の医師がいた。さらに同町には9軒もの薬種店があった。時代が下って文政9(1826)年になると、相川町には御役所詰医師12人、町医師12人を筆頭に、他国から佐渡に出稼ぎにやって来た旅医師2人が数え上げられている。幕末になると、佐渡の医師数は合計で130人にのぼるとされている。当時の医師がどのような診療をおこなっていたかについては、宿木村で開業していた蘭方医・柴田収蔵が弘化・嘉永期(1844–1854年)に記していた日記から読み取れる。そこには、患者に対する日々の診察記録が書きとどめられているし、また、自分の患者が別の医師に診てもらったことに対する苛立ちなどがつつみ隠さず記されている。

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