医学史におけるオーラル・ヒストリー研究のサーヴェイ:Tomes "Oral history and the history of medicine"(1991)

Nancy Tomes, "Oral history and the history of medicine," The Journal of American history, 78(2), 1991, pp. 607-617.

 医学史という分野におけるオーラル・ヒストリー(以下、OH)は、Peter Olchという先駆者により1960年代より研究が進められてきた。そこでは、同時代に急速に進んでいた技術革新や生物医学などの台頭を反映させ、ヘルスケアシステムに関わる専門家たちのインタビュー調査がなされた。しかし、そのようなOHが注目するのは、エリートな個人であったり、歴史的なイベントであったりと、個別的な事象ばかりであった。そんななか、OHをより幅広い文脈のなかで理解しようとする研究があらわれはじめる。1980年代後半のLatourやWoolgarによる実験室に関する研究では、科学知識が文化的に構築されるというテーゼが提示されたが、それを支持するデータとなったのは、OHによって明らかになった研究室内の正式でない個人的・知的ネットワークであった。そういった分析視角が部分的に医学史のOHにも導入され、医師たちのキャリア形成と個人的・社会的なネットワークとの関連を、インタビューを通じて明らかにすることが試みられた。具体的には、アメリカ血液学会(The American Society of Hematology; ASM)とコロンビア大学のOH調査室による共同アーカイブズなどがあげられる。

関連エントリ・リンク・文献

Oral History Interviews Portal: Collection Overview: Hematology: oral history, 1985-1989.

上述のASMとコロンビア大学の共同OHアーカイブ


臓器交換社会―アメリカの現実・日本の近未来

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歴史家のスゥェイジーと医療社会学者のフォックスによるこの共同研究は、異分野横断的なOHのモデルとしても紹介されている。