医学・美術・身体の融合と美術館:高山宏「身体という「驚異の部屋」」(2009)

 数年前に森美術館で開催された「医学と芸術」展(2009年11月28日〜2010年2月28日)の展覧会カタログをたまたま古本屋でゲットしたので、こちらのカタログに寄稿されている高山宏氏の論考を一本まとめてみました。非常に面白そうな展覧会だったのですが、タイミングが合わず行けなくて残念でした。
 ちなみに、本カタログの執筆者は他に、ケン・アーノルド氏(ウエルカム財団パブリックプログラム部長)、マーティン・ケンプ氏(美術史家、オックスフォード大学美術史名誉教授)、ジョン・サルストン氏(生物学者マンチェスター大学科学・倫理・イノヴェーション研究所理事)、福岡伸一氏(青山学院大学理工学部化学・生命科学科教授、分子生物学者)、南條史生氏(森美術館館長)となっております。また、展覧会HPはコチラ

高山宏「身体という「驚異の部屋」」『医学と芸術:生命と愛の未来を探る――ダ・ヴィンチ、応挙、デミアン・ハースト平凡社、2009年、42–51頁。

 1952年、医学と芸術に関するコレクションの嚆矢として、フィラデルフィア美術館がアルス・メディカコレクションを発足させた。当初、それほど話題にならなかったが、1985年の展示会が話題を呼び、「解剖」、「治療者」、「病、不全、狂気」、「生の循環」などの章が含まれていたその図録『アルス・メディカ』はこの分野の展覧会記録のモデルとなった。1989年は医学と芸術に関する展示会に関する記念碑的な年となった。パリにある国立ピカソ美術館長もつとめたジャン・クレールは、人間精神の数量化を試みた展覧会「Wunderblock」展をオーストリアで開催し、さらにそれを大規模にした「L'âme au corps」展をフランスでおこなった。同年のイタリアでは、「Fabbrica del pensiero」展がおこなわれ、「記憶術マニエリスム」、「脳解剖学――デカルトから骨相学へ」、「神経科学の誕生と最前線」などの主題について展示がおこなわれた。さらに、アメリカではMIT出版局のゾーン・ブックス叢書に『Fragments for a History of the Human Body』三部作が加わり、人文学における身体論の成果がまとめられた。
 1991年という年もまた美術と医学に関する重要な書籍が相次いで世に出たという点で画期的であった。 ステファン・グリーンブラットは『驚異と占有――新世界の驚き』においてカルチュラル・スタディーズ的なアプローチによって、16世紀以降ヨーロッパに集められた様々なコレクションの帝国主義的側面を明らかにし、博物館のもつ政治性を指摘したが、そういった考えを共有しながら、バーバラ・スタフォードは『ボディ・クリティシズム』において、近代という時代が生み出してきた生/死、美/醜、健康/病気、欧米/「未開」、といった二項対立を、美術と医学の融合によって乗り越えることを目指した。一方の日本では、荒俣宏による『解剖の美学』が出版され、今回の「医学と芸術」展と方向性を同じくする構想が20年ほど早く打ち出されたのであった。
 これまで日本においておこなわれた美術と医学に関する展覧会としては、1994年の「死にいたる美術――メメント・モリ」展(町田市立国際版画美術館および栃木県立美術館、企画はそれぞれ佐川美智子、小勝禮子)、1998-1999年の「ラヴズ・ボディ――ヌード写真の近現代」展(東京都写真美術館)、2007-2008年の「GOTH」展(横浜美術館)などがあげられる。そして、2009年の「医学と芸術」展である。美術と医学の融合を目指したこの展覧会の作品は、英国ウェルカム財団所蔵のコレクションに多くを依っている。同財団のコレクションはケン・アーノルド、ダニエル・オルセン(編)『Medicine Man』(2003年)によって世界中に知れ渡ったが、この展示会によって日本ではじめて紹介されることになったのである。

関連エントリ・文献

医療機器が呼び起こす身体感覚:Arnold & Söderqvist "Medical Instruments in Museums" (2011) - f**t note

ウェルカム財団のケン・アーノルドが博物館での医療機器展示に関して紹介をおこなっています。

美術は「死」に向き合えるか : Artist 井上 廣子

「死にいたる美術――メメント・モリ」展(1994年、町田市立国際版画美術館)の企画者である小勝禮子氏が『美術フォーラム21』(第8号、2003年、108–113頁)に寄稿した「美術は「死」に向き合えるか――「メメント・モリ」再考」を読むことができます。

『GOTH』横浜美術館[監修](三元社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

展覧会カタログ『GOTH』(横浜美術館監修、三元社、2007年)に関する高山宏氏のレビューです。

東京都写真美術館

2010年に「ラヴズ・ボディ――ヌード写真の近現代」展(1998-1999年、東京都写真美術館)の反響を受けて、「ラヴズ・ボディ――生と性を巡る表現」という関連した企画が同美術館でおこなわれたようです。こちらでは、「社会的病」であるHIVに感染したアーティストたちの作品が展示されたとのこと。


Medicine Man: The Forgotten Museum of Henry Wellcome (None)

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