読書

医師統制と郷校の役割をあわせもつ施設:下山佳那子「幕末期における郷校の設立」(2011)

「回顧と展望」『史学雑誌』(2012年6月号)にも紹介されていた江戸時代の医療の社会史に関する研究文献を読みました。近世日本の医療施設について考察するとき、それと藩との関係ばかりに注目するのではなく、民衆がどれほど設立にコミットしたかについての…

科学史関連アーカイブズの取り組み:「アーカイブズ・ネットワーク 南から北から」『記録と史料』(2008・2009)

『記録と史料』はアーカイブズ学の動向や各地域での活動を紹介する専門誌として有名ですが、本誌には「アーカイブズ・ネットワーク 南から北から」というコーナーがあり、様々なアーカイブズでの取り組みを紹介しています。今回は特に科学史に関連するアーカ…

医療の正統性と幕府・学統・市場:海原亮「近世都市の「医療」環境と広小路空間」(2005)

江戸時代の医療の社会史を研究する上で、基礎的な文献である海原氏の論考を読みました。特に、公的医療との関連を意識してまとめました。修論用メモ。 海原亮「近世都市の「医療」環境と広小路空間」吉田伸之・長島弘明・伊藤毅(編)『江戸の広場』東京大学…

世界史未履修問題以降の歴史教育:「<特集>いま、歴史教育は何をめざすのか」『歴史評論』(2012)

「<特集>いま、歴史教育は何をめざすのか」『歴史評論』749、2012年、1-72頁。 『歴史評論』の今月号(9月号)では歴史教育に関する特集が組まれていました。最近は、『学術の動向』(16(9)、2011年。)でも同様の企画が組まれており、歴史教育に関する関…

幕府の貧窮民対策としての社会事業:南和男「養生所の成立と実態」(1969)

小石川養生所に関する先駆的かつ基礎的な先行研究を読みました。こちらも修論用メモ。 南和男「第五章 養生所の成立と実態」『江戸の社会構造』塙書房、1969年、294-341頁。江戸の社会構造 (塙選書67)作者: 南和男出版社/メーカー: 塙書房発売日: 1969/08/24…

江戸期における医療教育施設と臨床施設の間の闘争:岩渕佑里子「寛政〜天保期の養生所政策と幕府医学館」(2000)

今回も修論のために幕府による公的な医療施設の歴史についての研究論文を読みました。 岩渕佑里子「寛政〜天保期の養生所政策と幕府医学館」『論集きんせい』22、2000年、40-61頁。 小石川養生所といえば、江戸時代に無料で貧民に医療を提供した施設として、…

名君がつくられるとき:加藤民夫「佐竹義和時代の文教政策」(2005)

修論執筆のため、秋田藩の藩政史に関する文献を読みました。 加藤民夫「佐竹義和時代の文教政策――『御亀鑑』の記事を柱として」『秋田県公文書館研究紀要』11、2005年、1-19頁。 http://www.pref.akita.lg.jp/www/contents/1134102834158/files/kiyou11.pdf …

3つの知の様式とその変位:Pickstone "Ways of knowing: an Introduction" (2000)

今年初めにおこなっていたJohn Pcikstone, Ways of Knowing (2000)の読書会のレジュメとして、その序論をまとめていましたが、ブログで紹介するのを忘れていたので、今更ながらアップしておきます。 John V. Pickstone, "1 Ways of knowing: an Introduction…

仁政イデオロギーと病気観の変遷:若尾政希「安藤昌益の病気論」(1992)

若尾政希「安藤昌益の病気論――身体・社会・自然」『歴史学研究』639、1992年、24-35頁。 近年、幕府・藩が果たした公共的な役割が注目を集めるようになり、むき出しの権力をふるうかつての権力者像に対して修正が迫られつつある。例えば、君主のもつ仁君に注…

メディアと精神科医の協働:佐藤雅浩「世紀転換期日本における精神医学的知識の通俗化過程」(2012)

明治〜昭和期の精神医学の社会史を専門とする佐藤雅浩さんの最新論文が出版されていましたので読みました。 佐藤雅浩「世紀転換期日本における精神医学的知識の通俗化過程――新聞メディアにおける精神疾患報道を対象として」『年報 科学・技術・社会』21、201…

大正期の障害児教育:高野聡子・松矢勝宏「川田貞治郎の偉績」(2008)

縁あって、大島にある藤倉学園を訪れています。本施設は川田貞治郎(1879-1959)によって1919(大正8)年に創設された、知的障害者のための施設です。そこで、今回は創始者である川田の履歴について簡潔に記した文献をまとめました。なお、著者の一人である…

労働者の病気と公共の安寧:アルレット・ファルジュ「労働現場の病いと医」(2011)〔1977〕

1980年代に出版された『アナール論文選』が、ここ数年「新版」として出版されています。今回は『アナール論文選 3 医と病い』(1984年)の中から、18世紀フランスの労働者の病気と国家・都市の公共性について論じたものを読みました。 ちなみに、2010年から…

日本におけるアーカイブズの動向:松岡資明『アーカイブズが社会を変える』(2011)

近年の日本におけるアーカイブズの動向について、非常に簡潔にわかりやすく説明した本を読みました。著者は日本経済新聞社の記者である松岡資明さんです。お求めやすい価格になっておりますので、アーカイブズに興味はあるけれど、まだまだ詳しくないって方…

科学史と図像:橋本毅彦「おわりに――科学技術の活動における図像の機能」(2008)

明日、駒場で楠川幸子先生の特別講演がおこなわれますが、発表とも関連する「科学史における図像」というテーマをサーベイした文献を読みました。なお、講演の詳細は以下をご覧下さい。申込不要。もちろん、無料です。 http://researchmap.jp/ev2n52ksg-66/#…

家の存続と捨て子:沢山美果子「「乳」からみた近世大坂の捨て子の養育」(2011)

8/4に開催される生物学史研究会「いのちの歴史学に向けて――胎児・赤子・捨て子のいのちの近世と現代」の準備として、発表者の沢山美果子さんの論文を読みました。なお、研究会の詳細については下記リンクをご参照ください。 http://researchmap.jp/evm22nbue…

女性高等教育の是非と医学言説の交錯:横山美和「19世紀後半アメリカにおける「月経」をめぐる論争の展開」(2012)

ジェンダーとの関連で科学史・医学史を論じた論文を読みました。なお、本論文の著者である横山さんには、近々、生物学史研究会で発表していただく予定です。こちらについては、詳細が決まり次第このブログでもご案内します。 開催が決定しました!詳細はコチ…

飢饉・疫病の発生と医療への期待:菊池勇夫「飢饉と疫病」(1994)

菊池勇夫『飢饉の社会史』(1994)の飢饉と医療の関係について論じた章を読みました。本書は江戸時代の飢饉が領主・民衆へと与えたインパクトと反応に注目し、「飢饉の社会史」という主題をはじめて検討した文献ですが、医療史とも関係が深い「第七章 飢饉と…

情報を取り扱うことの歴史と文化:Blair "Information Management in Comparative Perspectives" (2010)

読書会のレジュメとして、ブレア『あまりに多くて知ることが出来ない』の「第1章 情報を取り扱うことの比較史」という章をまとめました。なお、読書会の詳細は下記から。 http://d.hatena.ne.jp/hskomaba/20120628 Ann M. Blair, "Information Management in…

解剖学書における図像の役割: Kusukawa "The canon of the human body" (2012)

研究会用のレジュメとして、クスカワ『自然の書物を描く』の「第10章 人間の身体の正準」をまとめました。前章では『人体の構造に関する七つの本』より前に行われた議論が中心でしたが、本章はヴェサリウスの主著である『人体の構造に関する七つの本』を中心…

ルネサンスと図像のもつ機能:Kusukawa "Accidents and Arguments" (2012)

現在行っている研究会用のレジュメとして、クスカワ『自然の書物を描く』の「第5章 偶有性と議論」をまとめました。16世紀の植物学者フックスが古代の植物に関する知識の復興を試みる際に、図像がいかに重要な位置を占めていたかについて説明されています。 …

助産婦をめぐる国家と医師の思惑:Homei Aya ”Birth attendants in Meiji Japan” (2006)

Homei, Aya "Birth attendants in Meiji Japan: The rise of a medical birth model and the new division of labour," Social History of Medicine, 19(3), 2006: 407-424. 明治期における医療専門職の再編成はめまぐるしい。伝統的な漢方医は非正規の医療…

男性による介護から女性による介護へ:柳谷慶子「介護役割とジェンダー」(2010)

女性史研究の立場から、介護の歴史的な位置づけを検討している柳谷慶子さんの論文を読みました。『近世の女性相続と介護』(吉川弘文館、2007年)では主として近世日本における介護の実態について検討されていましたが、本論では近代日本における介護役割に…

朝鮮医学の知識・もの・ひとの受容:田代和生「近世前期朝鮮医薬の受容と対馬藩」(1995)

とある授業のアサインメントとして、近世前期の日本における朝鮮医学の受容について書かれた論文を読みました。(都合により、授業には出れていないのですが 笑) 個人的には、倭館(朝鮮・釜山)の朝鮮人医師に、対馬藩の医師が医学稽古を受けに行っていた…

言説分析について(3):香西豊子「解剖台と社会」(2003)

授業のアサインメントとして、言説分析に関する論文を読みました。これまでは、言説分析に関する理論的な議論をした論文を2本読みましたが、今回は言説分析を実際に用いた論文となっています。 香西豊子「解剖台と社会――近代日本における身体の歴史社会学に…

言説分析について(2):橋爪大三郎「知識社会学と言説分析」(2006)

とある授業のアサインメントの続きです。本章は、前回読んだ友枝論文と比較して、似ているとされる知識社会学と言説分析の方法論の相違点を強調していたので、わかりやすかったように思えます。しかし、実際に言説分析を使った論文を読まなくては、やっぱり…

患者記録から描かれる医学史:Risse & Warner "Reconstructing Clinical Activities" (1995)

Guenter B. Risse, John Harley Warner, "Reconstructing Clinical Activities: Patient Records in Medical History," Social History of Medicine, 5(2), 1995: 183-205. 医学史研究において、ケース・ヒストリーと呼ばれるタイプの史料群がある。16世紀以…

言説分析について(1):友枝敏雄「言説分析と社会学」(2006)

とある授業のアサインメントとして、「言説分析」の方法論についての文献を読みました。なお、今回の授業では、こういった学説史的な勉強を目的とするのではなく、その方法論を実際に使えるようになることを目的としています。ということで、今後、実際に言…

医学における苦痛への関心:Pernick "The calculus of suffering in 19th-century surgery" (1983)

Martin S. Pernick, "The calculus of suffering in 19th-century surgery," Hastings Center Report, 13, 1983: 26-36. Reprinted in Judith Walzer Leavitt and Ronald L. Numbers, eds., Sickness and Health in America: Readings in the History of Med…

医学の様式、科学・技術の様式:Jewson ”The disappearance of the sick-man from medical cosmology” (1976) & Pickstone ”Commentary” (2009)

医学史における重要論考の一つである歴史社会学者ジューソンの論文を読みました。医学史に社会学的な視点を導入することで、17〜18世紀における医学的世界観を見事に記述しています。それぞれの時代における、医学のパトロン、医療者・患者の位置づけ、医学…

宗教改革と医学というメタファー:那須敬「病としての異端」(2002)

那須敬「病としての異端――17世紀内戦期イングランドにおける神学と医学」石塚久郎、 鈴木晃仁編『身体医文化論:感覚と欲望』慶應義塾大学出版会 、2002年、67–90頁。身体医文化論―感覚と欲望作者: 石塚久郎,鈴木晃仁出版社/メーカー: 慶應義塾大学出版会発…